大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和54年(オ)1166号 判決

上告人

平田孝由

上告人

青木昭夫

右両名訴訟代理人

谷内文雄

被上告人

加藤進

右訴訟代理人

堤敏恭

平川純子

主文

原判決中被上告人の上告人平田孝由に対する土地明渡請求に関する部分を破棄し、右部分につき本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。上告人平田孝由のその余の上告及び上告人青木昭夫の上告を棄却する。

前項に関する上告費用は、上告人らの負担とする。

理由

上告代理人谷内文雄の上告理由第一点ないし第四点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第五点について

原審において、被上告人は、一審判決別紙目録二記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有権に基づき上告人平田孝由に対し所有権移転登記の抹消登記手続及び明渡を求め、これに対し同上告人は、抗弁として、被上告人の代理人と称する被上告人の妻フサエから昭和四六年二月一六日ころ本件土地を買い受けたものであるところ、(1) フサエには右売買の代理権があつた、(2) 民法一一〇条の表見代理が成立する、(3) 被上告人は右売買を追認した旨主張した。原審は、同上告人主張の右(1)、(2)、(3)の事実はいずれも認めることができないとして右の売買の効力を否定し、被上告人の請求をすべて認容した。しかしながら、記録によると、上告人平田は、事情としてではあるが、本件土地は右買受の時まで同上告人が長期にわたり被上告人から賃借していたものである旨陳述し、被上告人も右賃貸の事実を認める旨陳述していることが明らかであり、原審も右の陳述にそう認定をしている。もし、上告人平田が従前から本件土地の賃借権を有していたとすれば、その後に右賃借権が消滅したのでない限り、賃貸人である被上告人は同上告人に対し本件土地の明渡を求めることはできない筋合であつて、同上告人が無権代理人であるフサエから本件土地を買い受けた事実があるというだけでは、右賃借権が消滅するいわれはないものというべきである。そして、前記の訴訟の経過及び記録によると、上告人平田が、右の売買が無効と判断される場合でも、従前からの貸借権を本件土地の占有権原として主張しない意向であるものとは考えられないところであるから、原審としては、訴訟関係を明瞭ならしめるため、上告人平田の前記陳述の趣旨を釈明し、本件土地の占有権原として賃借権を主張する趣旨であるとすれば、その賃借権の成否、存続についてさらに審理を尽したうえ、明渡請求について判決すべきであつたものである。原審が右の釈明をせず、また審理を尽さないで明渡請求を認容したことには、釈明権の不行使及び審理不尽の違法があり、この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は被上告人の上告人平田に対する明渡請求を認容した部分に限り破棄を免れない。そして右の部分についてはさらに審理を尽す必要があるから、これを原審に差戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(環昌一 横井大三 伊藤正己 寺田治郎)

上告代理人谷内文雄の上告理由

第一点〜第四点〈省略〉

第五点

原判決は上告人平田に対し、登記の抹消と明渡を命ずるものであるが、森下の買受地は別として、上告人両名及び訴外小林新一郎の買受地は全て被上告人から従前より賃借している土地を売買目的物としたことは当事者間に争いなく且つ第一審判決の理由中(第一審判決書一四枚目裏三行ないし五行目)にも認定し、原判決もこれを引用する事実であるから、原審が売買の成立を認めないのであれば、売買前の占有権限について釈明権を行使すべきであつたのに、これをすることなく明渡を命じたことは、原判決に釈明権の不行使、審理不尽の違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすこと明らかである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例